雪を身にまとった富士山を背景に羽田空港を航空機が離陸するシーンをおさめた美しい情景の写真を見たことがある方は少なくないはずですが、この離陸シーンはある一定の前提条件のもとでしか見ることができないとても貴重なお宝景色なのです。
まず初めに、どうすればこの離陸シーンを見ることができるのでしょうか?
- 航空機がA滑走路を北向きに(RWY34L)離陸する場合
- 羽田空港国内線第1旅客ターミナルの展望デッキからA滑走路を望む場合
この条件が揃う場合、富士山を背景とした航空機の離陸シーンを楽しむことができます。
では、ここから先では上記前提を満たす条件について解説したいと思います。
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「ハミングバード・ディパーチャー」と呼ばれる離陸方式
富士山を背景とする写真が撮れる離陸方式のことを「ハミングバード・ディパーチャー」(Hummingbird Departure)と呼ばれています。
この離陸方式は羽田空港に適用される騒音軽減運航方式のひとつで「優先滑走路方式」という離陸ルールのもと運用されています。
ちなみに羽田空港は都心に至近の立地となっているので、騒音問題には細心のルールのもと時間帯に応じた離発着方法が適用されています。
ハミングバード・ディパーチャーが可能な条件
まず最初に、羽田空港における滑走路運用の運用原則を把握しておきます。
0600am~2300pm(日本時間)における滑走路運用ルール
- 北風運用時:RWY05(D滑走路)、及びRWY34R(C滑走路)を優先使用する
- 南風運用時:RWY16L(C滑走路)、及び16R(A滑走路)を優先使用する
- RWY04(B滑走路)は概ね20ノット(10m/s)以上の北東強風時に使用する
- RWY04(B滑走路)はRWY05(D滑走路)もしくはRWY34R(C滑走路)の閉鎖時に使用する
0600am~2300pm(日本時間)におけるハミングバード・ディパーチャーが可能な条件
- 運用可能時間:0700am~0900amであること
- 機種タイプ:ジェット機
- 定期便であること
- RWY34L(A滑走路)からの離陸が認可された場合

以上が国土交通省航空局が発表している公式の運用ルールです。
ハミングバード・ディパーチャーした航空機のルートは?
RWY34Lを離陸した航空機は700フィート以上まで上昇のうえ羽田空港より4NM以内に左旋回のうえ東京湾を南下しMIURAポイントを9000フィート以上で通過しなければなりません。
- NM:ノーティカル・マイル=1.852km(4NM=7.41km)


ハミングバード・ディパーチャーを狙うには?(結論)
国土交通省はRWY34Lにおける離陸可能枠を3便/日(根拠資料見つからず)としているそうなので、上述「0600am~2300pm(日本時間)におけるハミングバード・ディパーチャーが可能な条件」加え条件がひとつ追加されることになります。
つまり、以下5条件が揃った場合にハミングバード・ディパーチャーを狙うことができます!!
- 狙える時間:0700am台(理由後述)
- 機種タイプ:ジェット機
- 定期便であること
- RWY34L(A滑走路)からの離陸許可
- 1日3便
少なくともこれらの要件を満たさない限りハミングバード・ディパーチャーを見ることができません。
気象条件であるRWY34Lを使用する北風運用は個人努力だけではどうにもならないので、遠方にお住まいの方は運任せになってしまいます。但し、冬の間は北風運用がメインとなるので、「冬の早朝」であればハミングバード・ディパーチャーを狙える確率が高くなります。
実運用としてのハミングバード・ディパーチャー
国土交通省が運用する羽田空港「飛行コース情報提供システム」にて実際のハミングバード・ディパーチャーの運用時間を確認すると、どうやら0700am台に固定されているようです。0700am台に3便がRWY34Lを使用し離陸しているのが判ります。


ハミングバード・ディパーチャーは廃止を求められている
【羽田空港における騒音対策とアクセスの強化を求める意見書】
A滑走路北側へ離陸後、直ちに市街地上空を左旋回する航空機運用については、大きな騒音被害が生じることから、大田区は長らくその廃止を求めてきた。平成22年5月に貴省から発出された、再拡張後の運用に対する大田区への回答では、この左旋回について、当面1日3便以下とし、空港運用の慣熟を経て数年で廃止することを目標とするとされている。しかし、いまだに廃止に至らず、地域住民の不安は払しょくされていない。
平成26年10月9日
国土交通大臣 宛
大田区議会議長
【北風時A滑走路北向き離陸左旋回の廃止について】
- 羽田空港では、平成12年より、北風時においてA滑走路から北向きに離陸して大森南付近で左に旋回し、糀谷・羽田等の羽田空港近接市街地上空を低い高度で通過し、神奈川方面に進むルートが設定されおり、平成22年10月までは5便が運航し、現在は3便を上限に運航されてきました。
- 北風時(概ね7のノット以上)において出発混雑時間帯(7時台及び8時台)にYS-11並の低騒音ジェット機により1日5回以下運航などと記された「新B滑走路供用後の東京国際空港の運用」が羽田空港移転問題協議会(三者協)にて了承(平成12年3月)、7月運用開始。
- 再拡張後の運用協議において、1日3回を上限とし、「空港運用の慣熟を経て数年後に廃止することを目標とし、それまでの間も可能な限り減便に努める」と取り交わされた。(平成22年5月)
大田区は1日3便の離陸方式であっても廃止を目標に取り組んでいるようです。国交省も配慮のうえ騒音の小さな小型機に限定しRWY34Lからの離陸許可を与えているようですが、それでも大田区は引き下がっていません。どこまで騒音に悩まされているのか解りませんが、大田区(の住民)も意地の境地なのではないしょうか。
国交省が示した資料は見つかりませんでしたが、大田区の資料によると当初1日5便であったRWY34Lを使用したハミングバード・ディパーチャーによる離陸方式を1日3便とし、その後は廃止とすることを国土交通省と協議していたようですが、少なくとも2018年3月時点ではRWY34Lを使用した運用は廃止されていません。
2020年にはハミングバード・ディパーチャーは廃止される?
東京オリンピックを見越した旅客増加による航空機の発着回数増加を踏まえ、国土交通省は羽田空港における離発着方式を見直していることは、皆さん報道でご存知のことと思います。
国交省も飛行経路に住む住人を対象とした説明会を開催し、また新方式を広く認識して貰うべく、官公庁としては気合の入った説明用ホームページを設置しています。
このホームページにおいて新発着方式についても詳細に述べられているのですが、北風運用時におけるRWY34Lを使用した離陸方式については一切記載されていません。また解説用イラストにも離陸経路が反映されていません。
これは大田区を意識したものなのか、もしくは2020年に開始される新運用までにはハミングバード・ディパーチャーを廃止するという国土交通省の意思の表れなのか判断ができません。
まとめ
富士山を背景に航空機の写真を撮るのであれば「冬」「午前7時台」「北風運用時」「第1旅客ターミナル展望デッキ」の条件が全て一致する場合に限りハミングバード・ディパーチャーを狙えることができます。
しかしながら、羽田空港のお膝元である大田区は騒音を理由にハミングバード・ディパーチャーによる離陸方式の廃止を国土交通省に要請し続けています。
また2020年に運用開始予定の新発着方式においてはハミングバード・ディパーチャーが行われているRWY34Lからの離陸方式について述べられていません。
つまり、ハミングバード・ディパーチャーはいつ廃止されてもおかしくない離陸方式なので、狙うなら今です。新発着方式が適用される2020年まで、北風運用が主体となる冬は残り2シーズンのみです。善は急げ!!
参考記事

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