日本よりニュージーランド向けに輸出された自動車を積載した運搬船にカメムシがいたとの理由で、ニュージーランド当局は接岸して取り降ろした自動車を再度積載させ領海外へ出るよう指示した、という報道がありました。

Contents
カメムシが起因となり自動車運搬船が接岸できないという事態が発生
香港(CNNMoney) 自動車や機械類を輸送した日本からの船がニュージーランドへの入港を拒否される出来事が続いている。原因は船内で見つかったカメムシだ。ニュージーランド当局によれば、カメムシが船内から見つかったことを受けて、自動車や機械類の貨物船3隻について入港を拒否したと明らかにした。長い海岸線を持つニュージーランドにとって、カメムシは大きな脅威だ。国内の農家に大きな被害を与える可能性がある。カメムシは繁殖力が高く、さまざまな作物を食べ、殺虫剤にも強い。輸入車業界の業界団体幹部によれば、3隻の船は日本の新車・中古車を1万台以上輸送していた。農業や生態系を守るために、自動車産業にしわ寄せがいった形だ。輸入車業界に30年近く関わっている同幹部も、今回ほど深刻な状況は初めてだという。遅延の影響は入港できなかった車両に及ぶだけではない。約8000台の車両が日本で出荷を待っている状況だという。第1次産業省によれば、過去に経験がないほど多くのカメムシが特に日本からニュージーランドに入ってきているという。このような状況になった原因は分かっていない。ニュージーランドでは1990年代後半に車の製造が終了しており、今では輸入に頼っている。17年6月までの1年間でみると日本は車両や部品の輸入で最大手。金額は17億ドルに上る。
【引用:CNN】
日本でも最近話題になったヒアリは日本の検疫をすり抜けて日本に上陸しましたが、カメムシは農産国であるニュージーランドにとって大敵となります。日本で言うところの外来生物にあたり、農産物への影響を抑えるために本来あるべき検疫としての対処法を実践したと言えます。
ニュージーランドにおけるカメムシの扱われ方
ニュージーランドの一次産業省(MPI;Ministry for Primary Industries)のHPにおいてもカメムシに特化し作成されています。
MPIの説明によると、カメムシ(Brown marmorated stink bug)はニュージーランド固有の生物ではなく貿易や旅客によって持ち込まれ拡散しているものの、検疫では手に負えないため、国民に駆除を呼び掛けています。
カメムシが駆除対象害虫(Pest)となっている理由
では、どうしてカメムシが駆除対象害虫となっているのでしょうか?
まず、ニュージーランドは豊かな国土と地形により農産業が盛んであり、また輸出品目においても農産業(第一次産業)由来のものが主要輸出項目となっています。つまり農産物はニュージーランド経済の生命線なのです。
ところがカメムシは農産物に付着し食べてしまうからです。傷のついた農産物は商品価値を生みません。当然国民生活のみならず外貨取得による国の成長・繁栄にも大きな影響を及ぼします。
そのような理由でカメムシはニュージーランドにとって大敵・害虫としてみなされるのです。至極当然ですね。
ニュージーランドにおける対日本の自動車輸入の実態
一方で、ニュージーランドは自動車を生産しておらず輸入に頼っているという現状があります。下記ニュージーランドの貿易統計より全輸送用機器等の輸入額のうち、約30%を日本からの輸入に頼っていることが解ります。
また日本の税関統計より年間約18万台もの自動車がニュージーランドに向けて輸出されていることが解ります。単月であっても約1.5万台が輸出されているので、カメムシによって運搬船が接岸できないという状況はニュージーランド経済にとっても打撃になります。
カメムシの侵入により自国の農産物や雄大な自然が脅かされることを長期的な目線で考えれば、カメムシの進入を防止する方がニュージーランドにとっては幸福なのではないでしょうか。
参考:カメムシが侵入していた自動車運搬船とは?
通常海外に自動車を輸出する際は自動車運搬船が使用されます。RORO船(ローロー)とも呼ばれ、自動車が自走し輸送船に積載されたり取り降ろしされることから、タイヤが回っている状態の「ROle-in / ROle-out」より名付けられました。
自動車運搬船は船会社より自動車会社がチャーターし輸送することもあれば、日産のように子会社に「日産専用船株式会社」(主な株主:商船三井、日産自動車)を保有しているところもあります。
自動車運搬船の構造について
一般に、自動車運搬船のことはPCC(Pure Car Carrierの略)と呼ばれていますが、船体の側面にランプウェイ(Ramp Way)という車の渡るスロープを装備しているのが自動車専用船です。最近では、バスやトラック等の大型車両も積めるように、車高にあわせてデッキが上下するPCTC(Pure Car and Truck Carrierの略)が増えてきました。当社運航船の多くがPCTCとなっています。
【引用:日産専用船/http://www.nissancarrier.co.jp/ship_01.html】
日産専用船が運航している運搬船の自動車積載台数は3,200台~5,200台となっているので、平均して約4,000台の自動車が一度に運搬できることになります。
つまり、年間約18万台もの自動車をニュージーランドに向けて輸出しているので、年間45回もニュージーランドに向けて運搬船を運航していることになります。
自動車はどこで運搬船に積載されるのか
例えば横浜港であれば大黒ふ頭に自動車の集積場があり、ここに運搬船に積載される自動車が集まります。税関の観点で述べると、自動車は輸出される外国貨物となっているので、集積場は保税蔵置場となります。
集積場(保税蔵置場)より運搬船に自動車を積載しますが、そこで活躍するのが専門の荷役作業者です。大黒ふ頭では株式会社ダイコーコーポレーション等の荷役会社がその役目を担っています。
自動車専用とはその名の通り、自動車を専用に運ぶ船のことです。船の中は巨大な立体駐車場のような構造となっており、艙内の天井はトラックや大型建機を積めるよう天井が車高に合わせて上下することができます。船積みは1台づつ専用のドライバーが運転し、船に設置されているランプウェイというスロープから艙内に走り込み、前後30センチ、左右10センチの間隔で安全且つ正確に積み付けます。作業はチーム単位で行い、1チームが1時間に約100台搭載できる為、3チームで昼間の作業を行えば、1日で約1500台の車両を船積みすることが可能です。当社はこれまでの長年にわたり培った技術やノウハウを継承し、更に新しい技術と創意工夫により、安全・確実・効率的な本船荷役作業を提供しています。
【引用:㈱ダイコーコーポレーション】
まとめ
農産物が国民の食生活および貿易による外貨取得機会損失を鑑みればカメムシによる農産物への影響拡大を食い止めるために、カメムシが付着した自動車運搬船を領海外に出したニュージーランド政府の判断は賢明であったと思います。日本ではヒアリの話題が一時期盛り上がりましたが、その後はどうなっているのでしょうか?日本の検疫においてヒアリは水際で食い止めれているのでしょうか、疑問ですね。また今回は自動車運搬船についても取り上げましたが、大黒ふ頭の自動車集積場は湾岸線を走行するバスの車窓から良く見ることができます。どれくらい多くの自動車が輸出され、日本の経済に貢献しているのかを目の当たりにできる機会です。
参考記事

- 作者: 地球の歩き方編集室
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド・ビッグ社
- 発売日: 2017/10/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログを見る