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輸送需要が旺盛になるであろうSmart Luggageの貨物輸送を禁止とした日本航空の英断

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日本航空の貨物部門がリチウム電池を内蔵したいわゆるSmart Luggageを貨物として受託および輸送しない方針を決めたようです。この決定に至った経緯について、リチウム電池の危険性とともに説明します。

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日本航空貨物部門のお客様案内

Smart Luggage の取り扱いについて(国際貨物)

 

1. Smart Luggage の弊社貨物としての取り扱い

Smart Luggage は、旅客手荷物としては携帯用充電器(Powerbank、モバイルバッテリー)や予備電池と同様に取り扱われており、電池単体としての性質を強く持つことから、 当社としては当該品目を UN3480 リチウムイオン電池(単体)と分類し、IATA 危険物規則に従い、当該物品の当社便での貨物としての受託及び輸送を禁止といたします。(ただし内蔵・装着されたリチウム電池がボタン電池の場合は制限の対象外)

 

2. 適用開始日

2018 年 3 月 1 日(木)より(搭載日ベース)

 

【引用:日本航空 JALCARGO-INFO-17-058(2018年2月23日)】

https://www.jal.co.jp/jalcargo/inter/news/pdf/jcs-180223.pdf

日本航空がSmart Luggageを受託及び輸送しないと判断に至った経緯

IATA(国際航空運送協会)が発行しているDangerous Goods Regulations(DGR)の2018年版の補遺(Addendum)が発行され、その中で「旅客または乗務員が携行する危険物についての規定」が変更(追加)されました。

DGR変更(追加)内容

リチウム電池(リチウムボタン電池を除く)が装着された手荷物においては、電池は取り外し可能でなければならない。もし受託手荷物として携行する場合、電池は取り外されなければならず、客室に持ち込まれなければならない。

となりました。

つまり、リチウムボタン電池を除くリチウム電池が装着された手荷物は、

  1. もし手荷物を受託手荷物(預け入れ)とする場合、リチウム電池は取り外され、リチウム電池は客室内に持ち込まれなければならない。又は
  2. リチウム電池を装着したままの手荷物は客室内に持ち込まれなければならない。
  3. 他の機器を充電するように設計されたリチウム電池を持ち、かつそれが取り外せない手荷物は輸送が禁止される。

Baggage equipped with a lithium battery, other than lithium button cells:

  1. if the baggage is to be checked in, the lithium battery must be removed from the baggage and the lithium battery must be carried in the cabin; or
  2. the baggage must be carried in the cabin.
  3. baggage where the lithium battery is designed to charge other devices and cannot be removed is forbidden for carriage.

以上の規程(DGR)より、日本航空貨物部門は旅客手荷物の航空機搭載要件に倣い、貨物にも手荷物と同様の要件をそのまま適用したのです。

そもそもSmart Luggageとは?

リチウム電池を内蔵・装着した多機能スーツケースで、他の電子機器(スマートホン、ノートパソコン等)への充電、GPS、自動施錠等の機能を有しているスーツケース、バッグのこと。

どのような種類のSmart Luggageがあるのか?

COWAROBOT

【主な機能】

  • 自動走行
  • GPS
  • 自動施錠

BLUESMART

【主な機能】

  • 充電
  • 自動施錠
  • 自動計量
  • GPS機能

自動走行機能まで付いていて、もう笑けてしまいます。そのうち、ドローン機能なんかも付いてしまうのではないでしょうか!?

どうしてリチウム電池の航空輸送は厳しく制限されるのか?

世の中いろいろな便利ツールが開発されますが、その多くはリチウム電池を電源としています。その一方で航空業界では危険性が伴うとの理由から敬遠される傾向があります。IATA Dangerous Goods Regulationsに基づき適切な梱包要件を満たしたリチウム電池を含む貨物であったとしても、機長の判断で搭載できない場合もあります。機長にも信頼されていないくらいリチウム電池なのです。例えば、世界中の10万人以上のパイロットが加盟する団体である国際定期航空操縦士協会連合会(IFALPA)においても国連国際民間航空機関(ICAO;International Civil Aviation Organization)が発表した旅客便における貨物としてのリチウム・イオン電池の輸送禁止措置を支持しています。

IFALPA : IFALPA Supports ICAO’s Prohibition of Lithium-Ion Batteries as Cargo
on Passenger Flights

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具体的にリチウム電池はどのような危険性があるのでしょうか?

過去にはリチウム電池を起因として航空機の火災事故が発生しています。以下動画は具体例となるので、貨物としてリチウム電池を含むものを輸送する際はIATA DGRに基づく適切な梱包が必須です。

まとめ

リチウム電池は今の生活には欠かせない位にあらゆる電化製品の電源として組み込まれています。例えば、四六時中そばにあるだろう携帯電話やスマートフォン、おしゃれなコードレス掃除機、充電式ヘッドフォンなど誰でも持っている製品にリチウム電池は組み込まれています。一方で衝撃に弱いといった側面もあり、場合によっては発火します。もしリチウム電池が組み込まれたSmart Luggageが受託手荷物として預け入れされてしまったら、、、チェックインカウンターからULDへの積載場所まで衝撃の多いトンネルを潜り抜け、また航空機搭載後も前後左右上下からの衝撃を受け、常に発火の危険との隣り合わせの状況です。従い、日本航空貨物部門が貨物としてもSmart Luggageを受託しないと決定したのは妥当なのではないでしょうか。例えば、生産国の中国から欧米に向け輸送は航空輸送が使用され、場合によっては当該輸送ルートで日本航空が使用されるかもしれませんが、日本航空はこれから輸送需要が旺盛になるSmart Luggae輸送による収入よりも航空機の安全性を選択したのです。その決断の根底には「安全運航こそがJALの存立基盤」である信念を貫いた証拠ではないでしょうか。

荷主サイドとしても、リチウム電池の危険性を十分に把握したうえでIATA DGRの要件に沿った適切な梱包を行わなければなりません。航空会社は荷主の申告に基づき貨物を輸送するため、航空輸送における荷主の責任は安全性において重要極まりないことを重々認識願います。

参考記事 

 

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