2017年10月後半に開催された東京モーターショーについてはまだ記憶に新しいところですが、このようなモーターショーで展示されている車両は世界中のモーターショーでも展示されており世界中の自動車ファンを楽しませてくれます。
2017年の東京モーターショーではイタリア系の超高級スポーツメーカーの出展はありませんでしたが、ポルシェ、BMW、アウディ、メルセデスベンツ等のドイツの車両メーカーは出店していました。
では、もし東京モータ―ショーで展示されていたポルシェ 911GT3がドイツ本国より輸送されたうえで展示されていたとしたらどれくらいの輸入費用が日本で発生することになってしまうのでしょうか。
海外から物を輸入する場合は関税と輸入消費税が課税される
海外から日本に物を輸入する場合、商品価格+輸送費用+保険料を足し合わせたCIF価格に対し関税や輸入消費税(8%)が課税されることになります。ポルシェ 911GT3の車両価格はカタログ価格では21,150,000 円となっていますが、仮にもしこの価格がCIF価格とすると関税および輸入消費税は2,000万円に対し発生することになるのです。
幸いにも(?)完成自動車(※)を輸入する場合、関税は無税となり0%ですが、輸入消費税は課税されることになり、その額は単純に計算しただけでも169万円にもなってしまいます。
モーターショーに出展される高級車ももちろん課税対象
もし世界中を回る自動車が毎回各国でこのように税金を徴収されていては、メーカー側はたまったもんじゃありません。この時に救世主となるのが出展会場の機能なのです。
東京モーターショーは東京ビッグサイトにて開催されますが、主催者である日本自動車工業会が申請者(被許可者)となり、ショーの期間中は東京税関より「保税展示場」として許可を得ています。許可書がインターネットでも公開されているので、実物をご覧になりたい方は以下リンクをご参照下さい。
【保税展示場の許可について(東京税関)】
http://www.customs.go.jp/tokyo/content/Kokokuh27-274.pdf
ショーの会場が保税展示場になることのメリット
では、会場が保税展示場として機能することで、出展者にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
税関HPによると「保税展示場」の機能として以下のように説明がされています。
外国貨物を展示する会場として、税関長が許可した場所を保税展示場といいます。保税展示場は、国際的な規模で行われる博覧会や公的機関が行う外国商品の展示会などの運営を円滑にするために、外国貨物を関税などを課さないままで、簡易な手続により展示したり、使用する場所として設けられたものです。東京モーターショーなどは、この制度を利用して行われているものです。
- 法律 : 関税法第62条の2
- 蔵置期間 : 税関長が必要と認める期間
- 設置の手続き : 税関長の許可
つまり、上記赤文字箇所の通り、保税展示場に出展される自動車には関税や輸入消費税が課税されずに済むのです。
例えば海外美術品の展覧会が開催される場合も、美術品の価格(値段が付けられないような美術品であっても通関する以上は価格(価値)を付けることになる)によっては何億円にも上りますが、展示場を保税展示場として税関に申請し許可を得られれば関税等が課せられることなく展示することができます。もし高額美術品に課税されるようなことになってしまったならば、入館料は更に高額になるでしょう。そういった点では、出展者へのメリットのみならず、それらを楽しむ利用者側にも大きなメリットが生まれることがわかります。大袈裟かもしれませんが、保税展示場を定めている日本の関税法は、日本の国民の知識や生活が豊かになることを見据え考えられているのかもしれません。
参考:関税とは
輸入対象となり得るこの世の中に存在するほぼ全ての物には関税が課せられます。関税がどうしてかかるのでしょうか? これは海外で生産された安価な物が日本に持ち込みから国内生産者を保護するために関税が存在します。従い、国内産業が成熟し海外製品と互角に競争力のあるような自動車については関税は無税となります。反対に、TPPでも話題になるように海外産の安価なコメ等の農産物が輸入されることで国内生産者が打撃を受ける場合は高額な関税が課せられます。
関税率は『輸入統計品目表』(実行関税率表)に掲載されており、物品は統計品目番号(HSコード)にて分類されています。このHSコードは世界税関機構(WCO)が定めた『商品の名称及び分類についての統一システム(Harmonized Commodity Description and Coding System)に関する国際条約(HS条約)』に基づいています。2016年7月現在、世界税関機構が管理している同条約には、日本をはじめ153の国及びEUが加盟し、非加盟国であってもHSコードを使用している国と地域があり、それらを含めると200以上の国と地域がHSコードを使用しています。
『輸入統計品目表』は税関HPでも公表されているので興味のある方は参照して下さい。
【輸入統計品目表(税関)】http://www.customs.go.jp/tariff/index.htm
まとめ
海外より物を輸入する際に課税される関税は国内産業を保護する目的があることがお解り頂けたかと思いますが、一方で国民の知識・好奇心を育む役割を果たしているのが保税展示場です。東京モーターショーなどの海外メーカーの自動車は保税展示場に展示されるからこそ課税されずに済み、輸入消費税分を浮かせて自動車をアピールすることができます。
(実際、入場料は出展者である自動車メーカーではなく、主催者である日本自動車工業会に入場料が納まるため、保税展示場であることがどこまで入場者にメリットがあるのかはわかりませんが、、、)
なお、何億円もの価値がある海外美術品の展覧会においては会場が保税展示場に指定されることで入場者は安価な入場料で絵画等を楽しむことができます。そういった点では海外美術品の展覧会場の保税展示場指定は入場者に直接的なメリットがあるのかもしれません。