ワシントン条約 貿易 輸入 輸出 関税法

日本から象牙の密輸を企みまたもや中国人が逮捕されました

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日本より中国向けに象牙を輸出しようとして中国人が逮捕されたという報道がありましたが、逮捕される背景について説明したいと思います。

先ずは報道内容より。

日本から中国に象牙を持ち出そうとしたとして、警視庁生活環境課は11月30日、中国籍で住所不定、コンテナ船員、陳天彪(ちん・てんぴょう)容疑者(31)を関税法違反(無許可輸出予備)容疑で逮捕した。野生動植物の取引に関する「ワシントン条約」は象牙の国際取引を禁じているが、中国での人気は高く、「爆買い持ち出し」が横行しているとみられる。逮捕容疑は同28日午後11時45分ごろ、東京都江東区青海3の青海コンテナふ頭に停泊中の船に象牙製の印材605本(計7キロ)を積み、日本から持ち出そうとしたとしている。陳容疑者は「誰かが入れた物だ」と否認しているという。船は中国・上海を出発して東京港などを経由し、中国に戻るルートだった。船は28日午後7時半に東京港に入港。陳容疑者は買い物などで上陸した後、午後11時40分ごろに船に戻った。その際、東京税関の検査でリュックサックと紙袋の中から大量の印材が見つかったという。同課によると、関税法は象牙を許可なく輸出することを禁止している。印材605本は象牙1本分に相当し、国内流通価格は約31万円。中国では数珠などの宝飾品としての人気が高いが、国内での販売は禁止されている。このため現地では、日本の3倍の値段で取引されるという。陳容疑者は上陸後に「中国のメッセージアプリで知り合った男と食事をした」と供述している。同課はこの時に調達した象牙を中国で売りさばこうとした、とみている。

(引用:毎日新聞) 

 この記事においては逮捕されることになった理由は関税法違反ですが、キーワードである「象牙」「ワシントン条約」「国際取引禁止」が関税法違反の根本にあるようです。それらキーワードについて所管省庁ウエブページも参考に解りやすく説明します。

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ワシントン条約とは?

ワシントン条約という固有名詞を聞いたことがあると思いますが、そもそもワシントン条約とは何を定めた条約のことなのでしょうか。

ワシントン条約採択までの経緯

1972年にスウェーデン・ストックホルムで開催された「国連人間環境会議」において、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保護を図るため、野生動植物の輸出入等に関する条約採択会議の早期開催が勧告されました。

その後当勧告を受け米国の主催により1973年にワシントンDCにおいて81か国が参加して「野生動植物の特定の種の国際取引に関する条約採択のための全権会議」が開催され、同年3月に「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora)が採択されました。

本条約の趣旨を簡単に言えば、野生動植物の一定の種が過度に国際取引に利用されることのないようこれらの種を保護することを目的とした条約です。

本条約は、米国ワシントンDCにおいて採択されたことから、通称ワシントン条約と呼ばれています。また、英文条約名よりCITES(読み方:サイテス)とも呼ばれています。本条約は1975年年7月1日より効力を生じています。

日本もワシントン条約の加盟国

日本はワシントンDCでの会議に出席し、1973年4月30日に本条約に署名しましたが、1980年4月25日第91回通常国会において本条約の締結が承認され、1980年11月4日から発効しました。約180もの国や地域がワシントン条約の締結国となっています。

絶滅の恐れのある野生動植物を保護の重要度毎に3分類されている

ワシントン条約では絶滅のおそれがあり保護が必要と考えられる野生動植物を附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの3分類に区分し、附属書に掲載された種についてそれぞれの必要性に応じて国際取引を規制しています。

ワシントン条約附属書

附属書Ⅰ

基準

絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの

概要

  • 学術研究を目的とした国際取引は可能
  • 例外として、共同保護計画に基づくもの、繁殖施設において人工繁殖したもの、
    条約適用前に取得したもの、サーカスなどの移動展示

輸出時必要許可

  • 再輸出時:輸出国政府発行「輸出承認書」「CITES輸出許可書」、輸入国政府発行「輸入許可書」
  • 輸出時:輸出国政府発行「輸出承認書」「CITES輸出許可書」「繁殖証明書(※野生ではない場合)」、輸入国政府発行「輸入許可書」

※再輸出・・・輸入した種を再度輸出することを言う。

対象種の例

オランウータン、スローロリス、ゴリラ、アジアアロワナ、ジャイアントパンダ、木香、ガビアルモドキ、ウミガメ等

附属書Ⅱ

基準

現在は必ずしも絶滅のおそれはないが、取引を規制しなければ絶滅のおそれのあるもの

概要

  • 目的にかかわらず取引が認めらるが、輸出の承認が必要。

輸出時必要許可

  • 再輸出時:輸出国政府発行「輸出承認書」「CITES輸出許可書」
  • 輸出時:輸出国政府発行「輸出承認書」「CITES輸出許可書」

対象種の例

クマ、タカ、オウム、ライオン、ピラルク、サンゴ、サボテン、ラン、トウダイグサ等

附属書Ⅲ

基準

締約国が自国内の保護のため、他の締約国・地域の協力を必要とするもの

概要

  • 目的にかかわらず取引が認められる。

輸出時必要許可

  • 掲載国原産の場合:目的にかかわらず取引が認められ輸出の承認は不要であるも輸出許可が必要。
  • 非掲載国原産の場合:輸出もしくは
  1. 輸出時:輸出の承認は不要だが、日本原産の貨物の輸出については原産地証明書が必要。
  2. 再輸出時:「再輸出証明書」が必要なので、その申請が必要です。

※掲載国・非掲載国・・・掲載国とは附属書Ⅲの種の名称に括弧書きで付記されている国を原産とする場合のことで、非掲載国とは附属書Ⅲの種の名称に括弧書きで付記されている国以外を原産とする場合

対象種の例

セイウチ(カナダ)、ワニガメ(米国)、タイリクイタチ(インド)、サンゴ(中国)等

対象種は生き物だけではない

本条約の規制対象は、条約附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲに掲げられている動植物ですがが、生きている動植物のみならず、はく製等も含まれます。また、その部分やそれらを用いた毛皮のコート、爬虫類の皮革製品及び象牙彫刻品等の加工製品も対象です。

中国人が逮捕されるきっかけとなった象牙はどの附属書に該当するのか?

 さて、中国人が象牙の密輸(密輸出)で逮捕されましたが象牙はワシントン条約附属書のどの分類に属しているのでしょうか。

規制対象としては生きている動植物のみならず、その動植物を材料として使用した加工製品も規制対象となるのですが、象牙はアフリカゾウの牙です。ワシントン条約では、ゾウは附属書Ⅰに分類されており、最も規制が強化されている種です。

象牙の輸出を可能とする要件は?

上記で『ワシントン条約附属書』について説明しましたが、附属書Ⅰに該当する場合の国際取引の要件として「学術研究を目的とした場合」「輸出国・輸入国双方の政府が発行した許可書が必要」でした。

つまり逮捕された中国人が隠し持っていた象牙製の印材は学術目的ではなく中国での人気にあやかり高値で販売しようとしていた疑いがあること、そして日本及び中国両方の政府が発行した許可書を持参していなかったことがワシントン条約違反に該当します。

政府が発行す輸出許可書とは?

ワシントン条約に係る輸出許可の所管は経済産業省

ワシントン条約が規制する動植物やそれらの加工品等を輸出する場合、事前に経済産業大臣から承認を受け「輸出承認証」「輸出許可書」の発給を受けなければなりません。
輸出に必要な手続きと発給を受けるべき書類は、対象貨物の種がワシントン条約の附属書Ⅰ、Ⅱ、Ⅲのいずれに掲載されているかにより異なります。

  • 輸出承認書:経済産業大臣が輸出の申請に対して承認した書類
  • 輸出許可書:ワシントン条約管理当局が発行した輸出を許可する書類(CITES輸出許可書)

 これら承認書や許可書は経済産業省で申請し許可を得ることになりますが、詳細については以下リンクをご参照下さい。

経産省の輸出許可と税関の輸出許可は別物

ワシントン条約に基づく輸出許可は経済産業省の所管となりますが、最終的には税関の輸出許可も必要になります。おそらく逮捕された中国人船員はワシントン条約対象品目以外にも通常貨物における輸出通関を行わなかったものと思われ、爆買い中国人に睨みをきかせていた税関により水際での密輸が発覚したものと想定されます。

輸入におけるワシントン条約対象品の水際取締り

ワシントン条約は輸入品にも適用される

ワシントン条約は当然ながら輸入品にも適用され、その取り締まりは税関が大きな役割を担っています。平成28年(2016年)1月~12月における税関による輸入品目の摘発実績が税関ウエブページに掲載されていますので関心のある方は覗いてみて下さい。

ワシントン条約該当物品輸入差止等実績

摘発対象となった品目は薬や化粧品が多く、輸出国は中国や韓国、そして輸送形態は郵便が多いようです。手軽に購入できるものが実はワシントン条約対象品目であるなんて摘発されて初めて知るひともいるでしょうが、悪質な場合は税関に告訴される可能性があるので十分に気を付けて下さい。

動物園のパンダもワシントン条約対象

動物園の人気者であるパンダ(ジャイアントパンダ)はワシントン条約の附属書Ⅰに該当するので、中国より輸入する際は日中両国政府の許可が必要になります。但し、輸入は学術研究を目的とした場合に限られるので、動物園が研究するという前提になります。従い、個人でのペットとしての輸入は不可能です。

まとめ

今回報道された中国人船員が逮捕された理由はワシントン条約附属書Ⅰの対象品となっている象牙製の印材を無許可で輸出しようとしていたことです。ワシントン条約附属書Ⅰに該当する場合は輸出国・輸入国双方の政府による許可が必要となる程に「絶滅のおそれがある種」なので、それを商売目的で爆買いし中国で高値で売りさばこうとした中国人は倫理的にも罪は重いでしょう。

なお、私たちも気軽に海外旅行へ行ったり、海外から通信販売で何でも購入できる環境に恵まれるようになりましたが、現地では簡単に購入できるものが実はワシントン条約に抵触する品目も多くあるので注意が必要です。特にワシントン条約は「生きもの」のみならず、それらを材料にした装飾品等も規制対象になることを十分に認識して下さい。

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