国交省の防災ヘリコプターに使用していた米国製赤外線暗視カメラを廃棄処分としたものの中国人がオークションサイトで落札し航空貨物として香港へ不正輸出され当の中国人が外為法違反で書類送検された、との報道が本日ありましたがモノを海外に輸出する際のルールについて解説したいと思います。
(画像引用:毎日新聞ウエブサイトより)
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国交省より廃棄処分を依頼された三菱電機こそが当事件の根源
国土交通省が廃棄した防災ヘリコプター搭載の赤外線カメラをインターネットのオークションで落札し、中国の会社に不正に転売したとして、警視庁公安部は24日、外為法違反(無許可輸出)容疑で、中国人留学生の男(22)=東京都足立区=を書類送検した。カメラは米国製で米軍の偵察機にも使用されるなど軍事転用が可能なため、輸出が規制されている。男は容疑を認め、「生活費を稼ぐためだった」と供述しているという。送検容疑は昨年5月28日、航空機搭載用の赤外線カメラ1台(直径約38センチ、高さ約45センチ、重さ約44キロ)を経済産業相の許可を受けずに成田空港から中国・香港に輸出した疑い。同部によると、カメラは国交省四国地方整備局の防災ヘリに搭載されていたが、廃棄処分を依頼された三菱電機の下請け会社を通じて流出。複数の業者を経て入手した埼玉県越谷市のリサイクル会社がオークションに出品し、昨年2月に男が55万円で落札した。男は知人らに転売を持ち掛け、中国広東省広州市の会社に勤めるという中国人男性に15万元(約250万円)で売却。航空貨物で香港に送り、自身も渡航して受け渡した。男性の会社は軍事用品も扱っているという。
(引用: 時事通信社 11月24日記事)
そもそもこの暗視カメラは日本の商社が米国企業より輸入し国交省に納品され防災ヘリに装着されたものの廃棄処分となり三菱電機経由で廃棄処分業者へ渡った後にオークションサイトに掲載されたようですが、国の管理と国から廃棄処分を請け負った三菱電機の管理が甘いとしか言いようがありません。中国人の処分というより、そのようなものが市中に出回ってしまう方が問題が大きいような気もしますが、、、。
外為法違反とは何ぞや?
外為法(ガイタメホウ)の正式名称は『外国為替及び外国貿易法』といい同法の所管は財務大臣と経済産業大臣となっています。
では外為法とは何かを説明していきます。
外為法の目的とは?
同法第一条には目的が述べられており「この法律は、外国為替、外国貿易その他の対外取引が自由に行われることを基本とし、対外取引に対し必要最小限の管理又は調整を行うことにより、対外取引の正常な発展並びに我が国又は国際社会の平和及び安全の維持を期し、もつて国際収支の均衡及び通貨の安定を図るとともに我が国経済の健全な発展に寄与することを目的とする。」となっています。
超簡略化しますが、つまりは"日本および国際社会の平和・安全の維持と日本の経済発展の為に海外との貿易に国がある程度干渉しますよ"ということです。
今回の事件の根拠法とは?
北朝鮮の核実験やミサイル発射等にも見られるように大量破壊兵器や通常兵器の拡散は大きな国際問題となっています。こうした中で、我が国は、我が国の安全保障と国際的な平和及び安全の維持の観点から、大量破壊兵器や通常兵器の開発・製造等に関連する資機材並びに関連汎用品の輸出やこれらの関連技術の非居住者への提供について、「外国為替及び外国貿易法(外為法)」に基づき、必要最小限の管理を実施しています。外為法第48条第1項に基づき、特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物を輸出しようとする者は、経済産業大臣の許可(輸出許可)を受ける必要があります。特定の仕向地や特定の種類の貨物については、政令である輸出貿易管理令(以下「輸出令」という。)の別表第1で、大枠が定められています。
(参考:一般財団法人 安全保障貿易情報センター(輸出管理の概要 | 安全保障貿易情報センター (CISTEC))
外為法 第6章「外国貿易」
- 第47条「貨物の輸出は、この法律の目的に合致する限り、最少限度の制限の下に、許容されるものとする。」
- 第48条1項「国際的な平和及び安全の維持を妨げることとなると認められるものとして政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出をしようとする者は、政令で定めるところにより、経済産業大臣の許可を受けなければならない。」
- 第48条2項「経済産業大臣は、前項の規定の確実な実施を図るため必要があると認めるときは、同項の特定の種類の貨物を同項の特定の地域以外の地域を仕向地として輸出しようとする者に対し、政令で定めるところにより、許可を受ける義務を課することができる。」
- 第48条3項「経済産業大臣は、前二項に定める場合のほか、特定の種類の若しくは特定の地域を仕向地とする貨物を輸出しようとする者又は特定の取引により貨物を輸出しようとする者に対し、国際収支の均衡の維持のため、外国貿易及び国民経済の健全な発展のため、我が国が締結した条約その他の国際約束を誠実に履行するため、国際平和のための国際的な努力に我が国として寄与するため、又は第十条第一項の閣議決定を実施するために必要な範囲内で、政令で定めるところにより、承認を受ける義務を課することができる。」
今回は軍事転用も可能な暗視カメラであり 、これが「特定の種類の貨物」に該当し、中国人は経済産業大臣の許可を得ることなく輸出したこと、また条文は「特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物」となっている為、当事件は暗視カメラが最終的に中国に渡ってしまったことが外為法違反となります。
特定の地域の仕向地や特定の種類の貨物に該当するものは?
外為法では抽象的に「特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物」は事前に経済産業大臣の輸出許可を得なさいとなっているものの、具体的な特定の地域と特定の種類の貨物には何が該当するのでしょうか。
それらが具体的に規定されているのが『輸出貿易管理令』です。
当政令の第1条には「外国為替及び外国貿易法(昭和二十四年法律第二百二十八号。以下「法」という。)第四十八条第一項に規定する政令で定める特定の地域を仕向地とする特定の種類の貨物の輸出は、別表第一中欄に掲げる貨物の同表下欄に掲げる地域を仕向地とする輸出とする。法第四十八条第一項の規定による許可を受けようとする者は、経済産業省令で定める手続に従い、当該許可の申請をしなければならない。」とされていて、別表第1に具体的な貨物の種類が規程されています。
特定の種類の貨物とは?
輸出貿易管理令 別表第1:e-Gov法令検索
上記リンク「e-Gov法令検索」内に記載されていますのでご確認願います。あまりにも種類が多いのですが、世界平和と技術流出防止の為にも順守する必要があります。
特定の地域の仕向地とは?
原則として全地域向けが経済産業大臣の許可対象となります。
しかしながら、関税定率法に記載される一部貨物(但し、輸出貿易管理令 別表第1「1~15」に記載されるものは除く)については対象地域が限定されています。
対象地域が限定される関税定率法に記載される一部貨物
- 鉱物性生産品:第25類~第27類
- 化学工業(類似の工業を含む。)の生産品:第28類~第38類
- プラスチック及びゴム並びにこれらの製品:第39類~第40類
- 紡織用繊維及びその製品:第54類~第59類、第63類
- 紡織用繊維及びその製品 石、プラスター、セメント、石綿、雲母その他これらに類する材料の製品、陶磁製品並びにガラス及びその製品:第68類~第70類
- 天然又は養殖の真珠、貴石、半貴石、貴金属及び貴金属を張つた金属並びにこ
れらの製品、身辺用模造細貨類並びに貨幣:第71類 - 卑金属及びその製品:第72類~第83類
- 機械類及び電気機器並びにこれらの部分品並びに録音機、音声再生機並びにテ
レビジョンの映像及び音声の記録用又は再生用の機器並びにこれらの部分品及
び附属品:第84類~第85類 - 車両、航空機、船舶及び輸送機器関連品:第86類~第89類
- 光学機器、写真用機器、映画用機器、測定機器、検査機器、精密機器、医療用
機器、時計及び楽器並びにこれらの部分品及び附属品:第90類~第92類 - 武器及び銃砲弾並びにこれらの部分品及び附属品:第93類
- 雑品:第95類
関税定率法の別表抜粋:
http://www.meti.go.jp/policy/anpo/law_document/tutatu/t07sonota/t07sonora_kanzeiteiritu.pdf
経済産業大臣の許可対象とならない対象地域
輸出貿易管理令 別表第3:e-Gov法令検索
アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、カナダ、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、大韓民国、ルクセンブルク、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、スイス、英国、アメリカ合衆国
つまり、上記関税定率法の分類に該当し且つ輸出貿易管理令 別表第1「1~15」に記載されるものは除く貨物の種類で、上記別表第3に該当する地域を仕向地とする場合は経済産業大臣の許可は原則不要となります。
まとめ
海外に貨物を輸出するにも世界平和維持や我が国の技術流出を防止する目的で税関への輸出申告とは別に経済産業大臣の輸出許可が必要な貨物があります。今回の中国人が書類送検された背景には暗視カメラが米国製ではあるものの輸出貿易管理令の許可対象貨物であることから、我が国より海外に対して輸出する際は経済産業大臣の輸出許可が必要とされていたにもかかわらず未申告であったことによります。
自動車で使用するカーナビであっても、それがある一定の精度がある場合は兵器転用が可能なために経済産業大臣の輸出許可が必要な場合もあるので、現在は越境ECが拡大しているものの、安易に何でもかんでも輸出するにはリスクが伴います。該当品目に対象となるか疑問がある場合は輸出する前に経産省、税関、通関業者等に相談することをお薦めします。
しかし、この記事の最初の方に述べましたが、国防のお抱え業者である三菱電機は失態したとしか言いようがありません。