都心に至極近い場所に設置されている羽田空港ですが、都心から近すぎるがために風向き次第では貨物が予定便に搭載されないなんてことが生じてしまいます。特に冬場の北風時は要注意かもしれません。
では何故そのようなことが発生してしまうのか、検証してみましょう。
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1. 羽田空港に設置されている滑走路の長さと向き
2017年9月現在、羽田空港には4本の滑走路が存在しています。4本の滑走路は旅客ターミナルを内側に「口」の形のように並んで設置されています。では、それぞれの滑走路の長さと向きを記してみましょう。
- A滑走路:3000メートル | 34L / 16R
- B滑走路:2500メートル | 22 / 04
- C滑走路:3360メートル | 34R / 16L
- D滑走路:2500メートル | 23 / 05
それぞれの滑走路に「34L」や「16R」のような番号やアルファベットが割り振られていますが、これは飛行機好きならば基本中のキホンですね。二桁の数字は滑走路が伸びる方角を360度で表した場合のゼロを省いた数字を示していて、34というのはほぼ北向きに向かって伸びる滑走路であり、その逆の16というのはほぼ南向きの滑走路ということになります。また、LはLEFT(左側)、RはRIGHT(右側)を示すのですが、これは二本の滑走路が同じ向きに平行に伸びる場合にのみ付けられる記号ですので、羽田空港の場合はA滑走路とC滑走路は平行であることが分かります。
2. 飛行機が離陸滑走する際の向き
これはズバリ、飛行機は風に向かって(向かい風)離陸し、風に向かって(向かい風)着陸することになります。つまり、滑走路が一本のみの空港の場合は、離陸と着陸を同じ滑走路を使用し、同じ方向に向かって離着陸を行うことになります。飛行機が向かい風で離陸を行うのは空力学(揚力)にまで話が及んでしまうため、ここでは割愛させて頂きます。
3. 飛行機が離陸するために必要な滑走距離
航空機が離陸するのに必要な滑走距離は風向きや気温、高度、航空機重量等の複合因子に基づき決定されるのですが、例えば風向きを考慮に入れず航空機重量(離陸重量=Take Off Weight)、気温、高度のみを考慮した場合の離陸に必要な滑走距離は以下通りになります。
離陸重量:340トン(気温:15℃、高度:海面) ⇒ 滑走距離:約3000メートル
なお、離陸に必要な滑走距離は高度が上がれば距離も長くなります。
(参考資料)
777-200LR / -300ER / -Freighter Airplane Characteristics for Airport Planning
4. 都心上空を飛行できない理由
羽田空港の北側には都心の居住地が広がっています。深夜に離陸直後の航空機が上空を通過すると爆音で眠れませんよね?だから羽田空港を北側に向かって離陸する航空機は都心をかすめないように離陸後すぐに右旋回し、東京湾沿岸よりも海寄り上空を飛行するルールとなっています。つまり、都心上空を飛行しないように早く離陸する必要があり、その為に離陸滑走距離も縮めなければなりません。ゆえに、現在羽田空港にて深夜に北向き離陸可能なのは3360メートル長の34R滑走路(C滑走路)のみですが、離陸滑走距離は3000メートルに制限されています。ちなみに以前まではC滑走路長は3000メートルでしたが、その際の離陸滑走距離制限は2500メートルとなっていました。
すなわち、離陸滑走距離が3000メートルまでとなるように離陸重量を抑える必要があるのです。
(参考資料)
東京国際空港C滑走路延伸事業 国土交通省関東地方整備局・東京航空局・気象庁
5. ペイロードと貨物の優先順位
ペイロード(Payload)とは航空機に搭載される有償輸送物のことで「旅客」「旅客の荷物」「郵便物」「貨物」 を指します。また、ペイロードの限界は航空機が離陸する際の重量から搭載燃料と航空機の重量(運航重量)を差し引いた重量でありACL(Allowable Cabin Load)と呼ばれます。つまり、航空機の離陸重量は確定しているため、ACLはその時々の搭載燃料や運航重量に左右されることになります。そして我々カーゴマンにとっては悲しいことに、ペイロードにおける搭載優先順位は一般的に「旅客」>「旅客の荷物」>「郵便物」>「貨物」となっており、ACL重量が小さい時は貨物が優先的に搭載されなくなってしまいます。 ACLの重量制限に関して極端なことを言ってしまえば、旅客荷物でさえ搭載できないこともあったり、更に悪いことには旅客さえも搭乗人数が制限されることがあります。
6. だから貨物は搭載されない(泣)
ここまでお読みになって頂ければ貨物が搭載されなくなってしまう理由が薄々とお気付きになれたのではないかと思います。
つまり、羽田空港の北風運用時(34R滑走路使用時)には離陸滑走距離制限が発生する為、航空機の離陸重量を抑えるべくACLが制限されることになるものの、ペイロードの優先順位として貨物が一番低い為に未搭載(オフロード)の最優先候補となってしまうのです。当然、ACL制限が貨物のみで賄えきれない場合は、「郵便物」や「旅客荷物」もオフロードとなってしまう可能性があります。